遠い昔、はるかかなたの銀河系で・・・
つい最近、手を伸ばせば届く小さな水槽で・・・
時は動乱のさなか。凶悪な帝国の支配から自由を取り戻すための戦いは激化の一途をたどっていた。しかしその戦闘の合間に反乱同盟軍のスパイは帝国軍が建造している究極兵器の設計図を盗み出すことに成功。
それは”エロモ・スター”と呼ばれアピストを一瞬で滅ぼすパワーを持つアクア要塞基地だった。レイラ姫は敵の追撃をかわしながら奪った設計図を手に秘密基地へと急いだ。アクアの平和を取り戻すために・・・
エロモ・スター攻撃
エロモ・スターの設計図を奪われたことを知った帝国軍は、反乱軍の秘密基地があるヤヴァンを破壊するために完成したばかりのエロモ・スターをハイパースペースへ突入させた。
一方反乱軍は、入手した設計図を基にエロモ・スターを分析した結果、構造上の弱点が判明した。中心部の反応炉へと通じる小さな排熱口にプロトン魚雷を撃ち込むことにより大規模な連鎖反応爆発を引き起こさせるのが可能だと分かったのだ。
反乱軍の存亡がかかった一刻を争う事態にエロモ・スターへの攻撃隊を任されたのは若きヘンダイ(*) ”ルーク・スカイウォーター”であった。ルークは、故郷ミトゥイーンで農場の手伝いをしていたがマスターヘンダイのオビワン・セノービによりその高い素質と潜在能力を見出され、一躍反乱軍の中隊長へと昇格していたのだった。
既にご存知だと思うが念のためヘンダイについて説明しておこう。
ヘンダイとは、アピストグラマの美しさや魅力に陶酔し、家族や周りの人を巧みにたらし込みながら水槽本数を徐々に増やし、現状には決して満足することなく一流の技と多くの経験と拘りを持ってアピスト飼育の更なる高みを目指し全身全霊で傾注する猛者のことである。
ハイパースペースを抜けて現れたエロモ・スターを迎え撃つために、逆Yウイングに搭乗したルーク率いる攻撃中隊は、プレミアム・ファルコン号を操る賞金稼ぎのハン・ゾロとチューマッカとともにスクランブル発進した。
パタワンからの相談
一方その頃コルタントにあるヘンダイ評議会には、国内外を問わずヘンダイを目指す各地のパタワンから専用コムリンクを通じてアピスト飼育に関する相談や質問が数多く寄せられていた。
相談内容は、種や性別の同定・DVの緩和方法・飼育機材・アピスト写真の撮影・水質について等々多岐にわたる。
水質についての相談では、換水頻度であったり、pHなどの適正数値への調整方法が多い傾向にある。特に欧米のパタワンはpHの値とともにGHの値も気にしているようだ。水道水が硬水のため軟水に調整する作業が必要だからだ。そのためアピストよりもアフリカの湖産ドワーフシクリッドを飼育する人の方が多いようだ。
パタワンからの相談を受けていて毎回気がかりなことがある。それはほとんどのパタワンが濾過バクテリアの存在をあまり意識していない、ということだ。
良い水質を維持するのはバクテリアの役目であり、飼育者はバクテリアの活動を見極めてその活動のサポート役であることを意識して、出しゃばらず余計なことをしないことが重要である。従って換水頻度はその水槽に定着しているバクテリアの状態や数により異なる。
pHメーターって必要?
もう一つ気がかりなのは、水質=pH と誤認識しているパタワンがあまりにも多いと感じることだ。
アピストというのは軟水の低pHの水で飼育する魚と知られているためそれは致し方ない。しかし様々な経験をしてきた多くのヘンダイは酸性側であればpHはあまり関係ないと感じているのではないだろうか。
そもそもpHというのは水素イオン(H+)濃度指数として知られているが、厳密に言えば濃度とは違い水素イオンが自由に活動できる活量の指数という理解し難いものである。またpH値からある程度の傾向は把握できたとしてもその実体である飼育水の溶存成分は明らかにならない曖昧な指数なのだ。
とは言え、短時間で簡単に水質の傾向を把握できるpHメーターは便利なツールであることは間違いない。ただ季節により多少の変化があるとしても同じ水道水を使っていて、正しいバクテリアのサポート役を長い間こなしていればpHメーターを使わずとも多分ヘンダイ自身が推測した値と大差ないはずだ。
ヘンダイの中には飼育水に指を突っ込むことで正確なpH値を計測できる高度な技術を習得したマスターも居ると聞いている。
pH以外に把握すべき要素
餌は飼育者が飼育水に加える代表的な物質であり濾過サイクルのスタート地点である。各バクテリアの数や状況は水槽毎に異なり、投入する餌の量によりそれ以降のバクテリアの活動に影響を与えるため慎重に行う必要がある。
生体の排泄物や残り餌等は多種の好気性バクテリアによってタンパク質→アミノ酸→アンモニアへと分解される。これらのバクテリアは細胞分裂して2倍に増えるのに要する時間、所謂「倍加時間」は20~30分ととても早いのが特徴である。俗に言う水をピカピカにするバクテリアはこれらの仲間である。
アンモニアは酸性に傾いて高温でない飼育水では毒性が弱いアンモニウムへと変化する。アンモニウムを亜硝酸へと酸化(硝化)するのがタウムアーキオータ等のアンモニア酸化細菌である。倍加時間は長く約24時間掛かる。
亜硝酸を比較的無害な硝酸へと酸化(硝化)するのがニトロスピラ属等の亜硝酸酸化細菌である。倍加時間は更に長く約36時間掛かる。
硝化作用の最終産物である硝酸の蓄積は様々なものに悪影響を及ぼすため換水や水草の吸収により排出するが、アピストのような小さな魚を飼育する場合は明確な目的がない限り頻繁に換水で排出する必要はない。
通性嫌気性細菌とは、酸素濃度が低い環境でも生き延びることが出来る従属栄養細菌である。脱窒とは、このバクテリアが酸素がない環境で硝酸(NO3)から酸素の一部(O)を奪い取り、最終的には窒素ガス(N2)として水槽外に排出することをいい、結果として硝酸が減少することになる。しかしその環境は水が淀んでいてはならない、というかなり特殊な環境である。自然界ではこのような作用が行われているが飼育環境でこのようなシステムを作り上げるのはかなり難しいことである。
NH4+ + (3/2)O2 → NO2- + H2O + 2H+
図の③ではアンモニア酸化菌のタウムアーキオータ(古細菌)がアンモニアを亜硝酸に酸化している。化学式にすると上になりアンモニウム(NH4+)が酸素(O2)と結合して、亜硝酸イオン(NO2-)と水(H2O)と水素イオン(H+)が生成されている。
ここで生成される水素イオン(H+)が多くなればなるほどpHが低くなり、何らかの事情により硝化作用がうまく働かずアンモニウムイオンが残った場合は水酸イオン(OH-)が減らずpHが高いままという関係性がある。
このようにpH値に大きな影響を与えている水素イオンが変動するのは、バクテリアの活動サイクルの中の一部に過ぎない。従ってpH値が水質を見極めるための全てではないのはお判りいただけるだろう。
pHの他に計測すべき値として、魚に有害なアンモニア(NH3またはNH4)、硝化バクテリアにより生成される亜硝酸(NO2)と硝酸(NO3)、それと高濃度になると危険なリン酸塩(PO4)があげられる。更に飼育環境を確認するために水温、総硬度(gH)、炭酸塩硬度(kH)も計測しておきたい。
炭酸塩硬度(kH)はpHの緩衝作用を行いpH値を安定させる役目を果たす。このkHの値を維持するには総硬度(gH)が必要。そしてgHの値を維持するには当然ミネラル(Ca / Mg)が必要になることを知っておくべきだろう。
これらの物質の計測値は水質を管理する上でとても重要であるが、欠点として値を計測する場合にpHと水温以外は試薬を使う必要があるということだ。
ただし全ての水槽の値を頻繁に計測する必要はない。元水は同じはずなので、一定期間(一ヶ月程度)で一週間に一度程度、環境が異なる水槽をサンプルとして数本計測すれば事足りるはずだ。例として、生体の数が多い水槽と少ない水槽とか、大食漢の生体を飼育している水槽とか、水草が繁茂している水槽とか。また季節により水道水の水質が変化するので夏と冬は念入りに計測した方が良いだろう。
そして前回との結果に大きな差があった場合は必ずその原因を考えて記録しておくべきである。例えば、あの日に餌をいつもより多く与えてしまったとか、大量に換水をしたとか、生体を増やしたとか、水温が急激に変化したとか。
ここで注意しなければならないのは、計測された数値にのみ注目するのではなく、その数値とバクテリアの状況を関連付けて理解し予測することが重要だ。
例えば生体の数が増えたので餌の量を増やした翌日に亜硝酸の値が急激に大きくなっていた場合、いつもより多く生成されたアンモニウムに対して亜硝酸酸化細菌の活動が追いついていない、と気付くことができる。
ただし数値が前回から急激に変化したからといって、水質改善の万能薬と呼ばれている換水という応急処置は必ずしも必要なく、時と場合によっては餌を3日程度抜くことによりバクテリアのバランスが整い正常な状態に戻ることもある。
飼育者がバクテリアの活動状況を把握し、直接水質を変化させることは極力避け、あくまでもバクテリアのサポート役に徹すること、そしてそれを記録し経験を積むことが重要だ。
ところで試薬を使った計測はpHメーターを使った計測に比べて面倒で時間が掛かる。いつの日かpHメーターと同様に飼育水に浸せば瞬時に値が計測される機器が発明されるのを願うばかりである。
ついでに肥料の三大要素と呼ばれている窒素(N)、リン酸(P)、カリ(K)やその他の中量・微量要素が簡単に計測できたり、水槽内に存在するバクテリアの種類と数が短時間で分かるようになれば多くのヘンダイやパタワンが歓喜することだろう。
とは言え、値の変化を一定期間記録し続けることにより飼育者の行動による値の変動を予測できるようになるため、これらの値を頻繁に計測する必要性は少なくなるはずだ。
もし機会があればディスカス等餌を沢山食べるシクリッドの飼育に是非チャレンジしてほしい。バクテリアの数は与える餌の量に比例する。バクテリアの数が多ければ多いほど濾過バクテリアの仕事量が大きくなるため、計測値の変化も大きくバクテリアの活動状況を把握しやすい、という利点がある。
バクテリアはどこからやってくるのか
生物濾過に不可欠な濾過バクテリアはどこからやってくるのか。水槽内に入れる砂やソイル・産卵床・流木・水草などあらゆる物に付着しています。また魚の鰓や腸内や排泄物だったり、水や空気中からもやってくる。もちろんブクブクやスポンジフィルターに送られているエアからバクテリアは水槽内に常に供給されているはずである。ただし必要な濾過バクテリアのみが水槽内に混入するのではなく数え切れないほどの様々なバクテリアを含む微生物が混入する。その中にはカビなどの菌類やウイルスなども含まれるいる。また空気中には休眠状態の濾過バクテリア(シスト)が多く存在している。
そして飼育水に混入したこれらの微生物のうち水中で活動できる者が生き残る。その後は生存をかけた各バクテリアの戦いが続き、最終的には濾過バクテリアが勝利しそれぞれのコロニーを形成していく流れになるだろう。
ただし先住の濾過バクテリアが既にコロニーを形成している水槽では新たに混入してきたバクテリアは多分歯が立たないだろう。コロニーを形成したバクテリアはバイオフィルムという強力な武器を備えているからだ。
アピスト飼育を真剣に始めると同じタイミングで複数の水槽を新設することは少なくないはずだ。しかし全く同じ機材や環境で新設したのに濾過バクテリアの立ち上がりが全然違う、というのはよくある話だ。
その理由は、全くの新水であれば力のある先住バクテリアが居ない環境なので誰が生存競争の勝者になるか分かない状況だからだ。最終的には正しい濾過バクテリアが定着していくはずだが、立ち上がるまでの時間は水槽毎に異なる。
水槽を新設やリセットする際に元の飼育水を溜めておいて新たな環境に移す作業を行うことは多いと思う。水質の変化を極力抑える目的でこの作業をするのなら問題はないが、もしこの作業を濾過バクテリアの移行を目的としているならそれは間違いである。何故なら上で書いたように飼育水には有用なバクテリアはほとんど含まれておらず、微生物の死骸や戦いに敗れたバクテリアばかりのはずだからだ。
もし新たな環境に濾過バクテリアを移行するのであれば、スポンジなどの濾材自体や古いソイルを新たな水槽に移動し濾過バクテリアのコピーを作るのが手っ取り早いし得策だ。
こなれた水
水質についてパタワンとやり取りをしていると『こなれた水』とか『安定した水』というキーワードが時折出てくる。果たしてこの『こなれた水』とはどのような水を差しているのか。
『こなれた水』とは、生物濾過サイクルを構成する各バクテリアが充分に増殖し、それぞれの役割りがバランス良く結びついている状態の水を意味すると考える。不意な出来事が起きても動じることなく対処できる強い水とも言えるだろう。
逆にまだ熟成してなく不安定な水は、各バクテリアが充分に増殖してないので、有害な物質を全て分解しきれずバクテリアのバランスが悪く濾過サイクルが崩壊しやすい状態の水をいう。
まだ未熟な水をこなれた水へとステップアップさせるためには、各バクテリアのバランスを崩さず倍加時間を考慮しながら生体の数と餌の量を徐々に増やしていくしかない。
ここまでがアピストに限らず淡水で生体を飼育する際に知っておきべき基本的な情報だ。
難しい化学式やバクテリアの名前・生成される物質などは憶える必要はないが以下のことは抑えておいてほしい。
- いくつかのバクテリアのグループがそれぞれの役割りを担い水質を維持している
- pHが水質の全てではない
- バクテリアの種類やコンディションによりそれぞれの仕事量が異なるので飼育者はそれを見極めサポートする必要がある
- 生体数や餌の量、飼育者の行動による水の変化のパターンが把握できたら頻繁に水質を計測する必要はない
この記事はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり実在のものとは関係ありません。
そしてこれを書いた人のキャラもフィクションです。
掲載内容については、私の知識や経験を基に書いているため必ずしも正しいとは限りません。
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そしてこれを書いた人のキャラもフィクションです。
掲載内容については、私の知識や経験を基に書いているため必ずしも正しいとは限りません。